トヨタの「ウーブン・シティ」──未来社会の実験都市の全貌

Woven City 時事ひとしずく

トヨタ自動車が静岡県裾野市に建設を進めている「ウーブン・シティ(Woven City)」は、モビリティ、エネルギー、ロボティクス、AIといった先端技術を実証・実装するための実験都市です。富士山の麓に位置する元東富士工場跡地に建設されており、2024年には「街びらき」が行われ、段階的に実証がスタートしました。
※画像はイメージです。


概要

  • 建物構成
    住宅、オフィス、研究施設、商業スペースが一体的に整備されます。木材を中心にした環境配慮型の建築が採用され、「人に優しい街並み」を意識したデザインとなっています。
  • 居住者数
    初期は約360人が入居予定で、将来的には2,000人規模まで拡大する計画です。居住者は研究者や企業関係者、その家族など、街の実証に関わる人々が中心となります。
  • ライフライン
    街全体が水素を中心とした再生可能エネルギーでまかなわれ、分散型のスマートグリッドによる効率的なエネルギー供給が目指されています。交通は自動運転車が前提で設計され、歩行者専用道路、自動運転専用道路、混合道路の3種類が整備されています。

果たす役割

ウーブン・シティは「実験都市」としての性格が強く、以下の役割が期待されています。

  • 自動運転・モビリティの実証
    公道では難しい大規模な自動運転実験を、安全に継続的に実施可能。
  • エネルギー・環境実験
    水素エネルギーの利活用や、分散型エネルギーネットワークの運用実証。
  • 生活支援技術の検証
    AI、ロボット、遠隔医療など「人の暮らしを支える」テクノロジーを日常生活に組み込む形で検証。
  • 産学連携・オープンプラットフォーム
    トヨタだけでなく国内外の大学・企業が参画し、新しいイノベーションの創出が期待されています。

課題とリスク

ウーブン・シティは、世界でも類を見ない「実証実験都市」です。そのため、公式に認識されている課題と、専門家や外部の分析から浮かび上がる課題の両面を整理してみます。

1. 公式に言及されている課題

トヨタや Woven by Toyota が発表している資料・プレスリリースでは、次のような課題や方向性が示されています。

  • 「未完成の街」であること
    → 常に実験と改善を続けるため、完成形は存在しない。よって、途中段階での試行錯誤や技術の入れ替えは前提となる。
    (出典:Woven City公式サイト
  • 「人中心」の技術開発が必要
    → 自動運転やAI技術はまだ完全には成熟しておらず、住民の快適さや安心を最優先にしながら実装する必要がある。
    (出典:Toyota Global Newsroom
  • 共創による検証
    → トヨタ一社で解決できる課題ではなく、他企業・研究機関・市民との協力による実証が不可欠である。
    (出典:Woven City公式サイト

2. 外部の研究や専門家の分析から指摘されている課題

一方で、学術研究やテック系メディアは、以下のようなリスクや懸念を指摘しています。

  • データプライバシーと監視リスク
    センサーやカメラが街全体に張り巡らされることで、住民のプライバシーが脅かされる可能性がある。
    (出典:SpringerOpen Innovation & Entrepreneurship
  • 高コストと収益性
    街そのものが巨大な研究開発拠点であるため、運営コストが莫大。成果が事業化できなければ持続性に疑問が残る。
    (出典:AP通信
  • 技術の成熟度不足
    自動運転や配送ロボット、デジタルツインなどは発展途上の技術。街全体を巻き込んで安定運用できるかは未知数。
  • 住民体験(UX)の快適性
    技術が生活に過剰に入り込み、かえってストレスや「監視されている感覚」を与える可能性。
  • 他都市への適用可能性
    Woven City の成功がそのまま他都市に応用できるとは限らない。地理・法制度・文化の違いに適応する柔軟性が求められる。

今後の展望

ウーブン・シティは、単なる「トヨタの実証実験場」ではなく、未来の都市の在り方を探る社会実験の場です。今後は、参加企業・大学との協働が進み、モビリティやエネルギー分野だけでなく、健康、教育、エンターテインメントといった幅広い分野に応用されていく見込みです。トヨタはこのプロジェクトを通じて、「モビリティカンパニー」への進化を加速させ、日本発の未来都市モデルを世界へ発信することを目指しています。

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