広陵高校暴行事件に見る ― SNS拡散と誹謗中傷の危険性|心理と法律の両面から考える

甲子園のグラウンドに置かれた野球のボール、広陵高校暴行事件の影響を感じる不穏な空気 時事ひとしずく

はじめに

広陵高校暴行事件をめぐり、SNS上で多くの投稿が拡散されています。
中には「拡散お願いします」という一文だけでリポストされるものや、学校や関係者への誹謗中傷、さらには脅迫めいたメッセージも見受けられます。しかし、このような行動は大きな社会的リスクを伴い、場合によっては犯罪となる可能性があります。

なぜ真偽不明の情報が拡散されるのか(心理面)

SNSでは、情報の正確さよりも「感情」が先に動くことがあります。

  • 善意の拡散
    誰かの助けになりたい、悪を正したいという気持ちが先走る。
  • 怒りや正義感の高ぶり
    自分が許せないと感じたことを周囲にも知らせたい衝動。
  • 同調圧力
    フォロワーや友人が拡散していると、自分もやらなければと感じる。
  • 即時性の誘惑
    情報が流れてきた瞬間に、深く考えずシェアしてしまう。

これらは一見「正しい行動」に見えますが、真偽の確認を怠れば、結果的に無関係な人を傷つける加害行為となります。

SNSでの拡散・誹謗中傷が罪になるケース(法律面)

1.名誉毀損罪(刑法230条)

公然と事実を示し、人の社会的評価を下げる行為。
→ その事実の有無にかかわらず、3年以下の拘禁刑、50万円以下の罰金。

※2025年6月1日施行の改正により、懲役刑および禁錮刑が「拘禁刑」に統一されました。

2.侮辱罪(刑法231条・2022年改正)

事実を示さずに侮辱する(「死ね」「クズ」など)。
→ 1年以下の拘禁刑、30万円以下の罰金、又は拘留若しくは科料。

3.脅迫罪(刑法222条)

危害を加える旨を告げる行為(メール・DMも対象)。
→ 2年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金。

4.刑法第233条(信用毀損及び業務妨害)

虚偽情報で学校や関係者の業務を妨害する。
→ 3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金。

5.民事責任(損害賠償)

慰謝料や弁護士費用の支払い命令。
匿名でも発信者情報開示請求で特定される可能性大。

「善意だった」は免罪符にならない

「本当だと思った」「善意で拡散した」という理由では、法的責任を免れられない場合があります。
特に、脅迫や殺害予告は冗談であっても即逮捕される可能性があります。

読者への行動提案 ― 拡散前に3つ確認する

  • 出典は信頼できるか?(一次ソースは何か)
  • 事実か意見か?(感情的な表現だけでないか)
  • 本当に必要な拡散か?(公益性があるか)

真偽が不明なら「シェアしない」という選択も立派な行動です。

まとめ

SNSは瞬時に多くの人に情報を届けられる反面、その影響力は非常に大きいものです。
怒りや正義感からの衝動的な拡散や暴言は、被害者を増やし、自分自身を法的リスクにさらします。
私たち一人ひとりが、情報の受け手であり発信者であるという自覚を持ち、冷静な行動を心がけることが、デジタル時代の責任ある市民の姿勢です。


参考資料

刑法第230条(名誉毀損) – 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した場合の刑事罰を定めています。

刑法第231条(侮辱) – 事実を摘示せずに公然と人を侮辱する行為について定めています。2022年改正で刑罰が強化。

刑法第222条(脅迫) – 生命・身体・自由・名誉または財産に対して害を加える旨を告知する行為について定めています。

刑法第233条(信用毀損及び業務妨害) – 虚偽の風説を流布し、または偽計を用いて、人の信用を毀損し、またはその業務を妨害した者に対する罰則を定めています。

法務省:インターネット上の誹謗中傷等について – 名誉毀損や侮辱に関する解説と相談窓口情報。

警察庁:インターネット上の違法情報・有害情報対策 – インターネット上の書き込みによる名誉毀損やプライバシー侵害等の被害に関する相談窓口や対応方法が案内されています。

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