新聞の誤報とAI時代の情報リスク

デスクで新聞を読むビジネスマン 時事ひとしずく

読売一面誤報が示した「正しさ」のゆらぎ

2025年8月27日の読売新聞朝刊で、一面トップに掲載された記事に誤報があり、翌日の紙面で謝罪と訂正が行われました。内容は、不正疑惑に関連して議員名を取り違えたというものです。新聞社にとって一面は“看板”であり、その信頼を根本から揺るがす事態といえます。

誤報についての謝罪全文は以下の通り。2025年8月28日朝刊一面にも同じ文面が掲載されています

27日1面「公設秘書給与不正受給か 維新衆院議員 東京地検捜査」との見出しの記事で、読売新聞は、日本維新の会の池下卓衆院議員が採用していた公設秘書2人について、東京地検の強制捜査などが近日中に行われると判断して報じましたが、実際に強制捜査の対象となったのは同党の石井章参院議員でした。
 取材の過程で、池下議員と石井議員を取り違えてしまいました。捜査の対象を誤った記事を掲載することになり、正確な報道が求められる新聞社として、あってはならない重大な誤報だったと考えています。記事を訂正し、池下議員および関係者の皆様に深くおわびいたします。
(引用:読売新聞オンライン2025/08/28 00:10)


SoraUmiが思ったこと

このブログで記事を書くようになって、時代に逆行して以前より新聞を隅々まで読むようになっていました。
もちろん、2025年8月27日付け朝刊トップの該当記事も読んでいて、”日本維新の会の池下卓衆院議員が不正”という情報と顔写真が私の頭にインプットされていました。だけど、そのあとのTVニュースなどでは同じ党の石井章参院議員の件が取り上げられていて、日本維新の会で連日の不正騒ぎがあったのか、と思いこんでいたのです。
そんなわけで、今朝の朝刊で上記の謝罪文を見てびっくりしました。同じ党で同じ「い」から始まる苗字とはいえ、年齢も顔も違うのに間違えたりするのかな?と思いました。
謝罪文も小さめで地味なので、見逃していたら未だにそう思い込んでいたところです。

何でこんなことになったのか読売新聞に問い合わせたいとも思いましたが、答えてくれる訳がないでしょうから、一般的な要因をまとめてみたいと思います。

なぜ誤報は起きるのか

大手紙が一面トップで誤報を出すというのは非常に珍しいですが、ゼロではなくていくつかの典型的な要因があります。

人物の取り違え(同姓・同じ派閥など)

政治家の場合、同じ名字や似た経歴の人物が複数いることがあります。編集部での確認が甘いと、誤って別の議員を疑惑の当事者として書いてしまうことがありえます。

情報源の混乱・誤伝達

記者が複数の情報源から話を聞く過程で、「どの議員か」という部分が錯綜してしまうケース。情報源側の言い間違い・記者の聞き間違いも含まれます。

事実確認(ファクトチェック)の不十分さ

本来なら記事にする前に「本人への確認」「党関係者や議会事務局などへの裏取り」を必ず行うべきですが、速報性を優先して不十分なまま出してしまうと誤報につながります。

編集工程でのヒューマンエラー

取材段階では正しくても、見出し作成やレイアウト時に別の人物名が入ってしまうこともあります。紙面は何度も手が入るので、作業途中で差し替えミスが起きることもあります。

時間的プレッシャー

朝刊の締め切りは深夜。速報性と分量の制約の中で、十分な確認の時間を取れないまま紙面に載ってしまうことも背景にあります。


誤報は訂正されても…

新聞やNHKは誤報を出した場合、訂正や謝罪を行う責任を果たします。これが伝統メディアの信頼の源泉です。
しかし現代の情報流通環境では、訂正が出ても 二次利用される情報 がそのまま残ってしまうという新しいリスクがあります。

AI検索・自動要約サービスが抱える危うさ

最近急速に普及するAI検索(Perplexity、Gemini、ChatGPT+検索など)は、新聞や通信社の記事を主要な情報源にしています。

  • 一度誤報が記事として出ると、AIは訂正が出る前に学習・要約し、拡散してしまう。
  • 翌日に訂正記事が出ても、AIやまとめサイトがそれを正しく反映する保証はない。
  • その結果、「新聞社が既に謝罪した誤報」が、ネット上では“正しい情報”として残り続ける危険性がある。

つまり、誤報の影響が 紙面だけでなく、ネット全体に長期的に残ってしまう という問題があります。


人間のメディアとAIの責任の違い

伝統的な新聞は「誤報があれば謝罪し、訂正する」という社会的責任を負っています。
しかしAIや自動要約サービスには、その責任を誰がどう負うのかが曖昧なままです。

  • 新聞:誤報を出した責任を明確にする(社告・謝罪)。
  • AI:誤報を拡散しても「情報源がそうだった」と逃れられる。

この非対称性が、今後さらに大きな問題になると予測されます。


まとめ ― 信頼をどう守るか

今回の読売の誤報は、一社の失敗にとどまらず「AI時代における情報の正しさ」という構造的な課題を浮き彫りにしました。

  • 新聞や放送は基本的に信頼できるが、誤報はゼロではない
  • AIや自動まとめがそれを拡散すると、訂正が届かないまま残ってしまう
  • これから必要なのは「訂正情報をどうネット全体に反映させるか」という新しい仕組み

新聞が100年かけて築いた「信頼性」が、AIや自動要約の仕組みで一気に脆くなる。これは由々しき事態だと思います。私自身は、新聞やNHKのニュースは基本的正しいと信頼していますが、AI時代には受け手側が訂正情報まで意識的に追いかける必要があるのだなと認識を新たにしました。


タイトルとURLをコピーしました