今回の読売新聞の誤報について、その原因は複数段階あったはずの確認プロセスに穴があり、結果として間違った記事を出し、議員と秘書の名誉棄損という事態を招きました。
これはいわゆるスイスチーズモデルの典型例です。
※この記事にはプロモーションが含まれます。
スイスチーズモデルとは?
重大事故や失敗は、たったひとつの人為的ミスで起こるわけではありません。
心理学者ジェームズ・リーズン(James Reason)が提唱した「スイスチーズモデル」では、次のように説明されます。
- 安全対策やチェック体制は「スイスチーズのスライス」のようなもの
- それぞれに小さな穴(不完全さ)がある
- 普段は穴が重ならず、どこかで食い止められる
- しかし、偶然すべての穴が一直線に並んだとき、大事故が発生する
航空業界や医療現場などの安全対策を語る上で非常に有名な理論で、世界的に使われています。
社会的に大きな事例(5選)
1. 新幹線「のぞみ34号」台車亀裂(2017年)
走行中の新幹線で台車に破断寸前の亀裂が発見されました。
- 点検時には異常なしと判断
- 走行中の「異臭・異音」報告も軽視
- 指令所も「運行継続可」と判断
複数のチェックがすべて漏れ、あと一歩で大惨事に。
2. 大阪大学附属病院での腎臓移植取り違え(2022年)
ドナーとレシピエントが逆に手術されるという前代未聞のミス。
- 手術前に患者確認は複数段階で行うルール
- リストバンド確認・口頭確認もあった
- しかし全員が同じ誤解に立っていたため、チェックは形骸化
幸い命に別状はなかったが、スイスチーズモデルを体現する事例。
3. ANA機の滑走路誤進入(羽田, 2023年)
別機が着陸中の滑走路にANA機が侵入。
- 管制官 → 副操縦士 → 機長と三重のチェックがあるはず
- 無線の聞き間違い、思い込み、悪天候が重なり、誰も止められず
間一髪で衝突は回避された。
4. コロナワクチン廃棄(全国の自治体, 2021年)
温度管理を誤り、数千回分が廃棄された事例が相次ぎました。
- 複数人で温度確認する体制
- 記録方法の誤解、引き継ぎの不備、担当者の思い込み
- それらが偶然重なって全員が「大丈夫」と見逃した
社会的損失につながった典型例。
5. スペースシャトル「チャレンジャー号」爆発(1986年)
少し古いが有名な例。
- 技術者は「Oリングの危険性」を警告
- 会議や承認プロセスが複数あったにもかかわらず、情報が薄められて伝わる
- 打ち上げスケジュール優先で「安全」と判断されてしまった
最終的に爆発し、乗員7名が犠牲に。
日常生活に身近な事例(5選)
1. 学校給食でのアレルギー事故
- 給食センターでは仕入れ・調理・配膳と複数段階でアレルゲン確認を行う
- 表示ミス → 厨房での確認漏れ → 教員の思い込みが偶然重なり、アレルゲン入りが提供される事例が実際に発生
2. 薬の処方ミス(薬局)
- 医師の処方入力 → 薬剤師のチェック → ダブルチェック体制
- 「前回と同じだから大丈夫」という思い込みで誤薬が渡る事例が報告されている
- 特に高齢者では命に関わるリスク
3. 学校行事での熱中症事故
- 「体調チェック」→「教員による観察」→「水分補給指導」と多重の対策
- しかし本人が「大丈夫」と言い、教員も忙しく、周囲も見落とし
- 発見が遅れて重症化したケースがある
4. 医療検査の取り違え(健診現場)
- 採血・検体ラベル・受付管理の三重チェック
- 名前の聞き間違いやラベル貼り間違いが連鎖し、別人の検査結果を伝えてしまう事例
- 本人確認を複数人で行っても「同じ勘違い」が重なると防げない
5. スーパー・コンビニでのアレルゲン表示漏れ
- メーカーでのチェック → 卸 → 店舗での確認と流通段階で複数の安全策
- しかし入力ミスやラベル印刷ミスが見逃され、リコールになる事例が相次ぐ
- 消費者の身近なリスクになっている
まとめ
- スイスチーズモデルは「どんな安全策にも穴があり、偶然が重なると事故になる」という考え方
- 社会的な大事故も、日常の小さなミスも、この理論で説明できる
- 「自分は大丈夫」と思っていても、実は複数のチェックが同じ方向に外れることはあり得る
私たち一人ひとりにできることは、「自分が最後のチーズになる」意識で確認すること。
小さな気づきが、大きな惨事を防ぐかもしれません。
美味しいスイスチーズが食べたくなりましたか?
リンク